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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(行ツ)82号 判決

札幌市南一条東四丁目七番地

上告人

遠藤勲

札幌市大通西一〇丁目

被上告人

札幌中税務署長

甲谷義雄

右当事者間の札幌高等裁判所昭和四四年(行コ)第三号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四四年八月一三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。

よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

原判決(原審において付加、訂正のうえ引用する一審判決を含む。)は、本件裁決書は昭和四二年一一月七日上告人住居に書留郵便により配達されたことが認められ、他に右認定を覆えし得べき特段の事情の主張立証もないから上告人は右の日に裁決のあつたことを知つたものと認めざるを得ない旨を認定しているのであつて、右認定は、挙示の証拠に照らし是認することができ、また、証拠の取捨判決も首肯するに足り、その間に所論の違法は認められない。所論は、すべて採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

(昭和四四年行ツ第八二号 上告人 遠藤勲)

上告人の上告理由

原判決は、証拠の価値判断を誤つて、不当に事実を認定した違法がある。

一、上告人の本件訴の提起は、行政事件訴訟法第一四条に定められた出訴期間を経過した後になされた不適法なものと認定した。

しかし行政事件訴訟法第一四条の規定は、上訴期間を処分又は裁決があつたことを知つた日から三カ月以内と定めてあり、即ち被処分者がその処分等を知つた日が基準となつているものであるから、上告人が被上告人の裁定書を事実上受領したことが即ちこれを知つた日となるわけである。

ところが原判決認定の資料となつた乞第五号証(書留郵便物配達証)の受領印は「遠藤」の認印であり、単なる印しであつて、上告人が真実受領したか否かはさだかでないのであるから、これのみをもつて上告人が裁定を知つたか否を判定するのは早計といわなければならない。従つて右同法の規定の如き処分等を知つた日が重要且つ絶対的な要件となるべき場合は、いやしくも被処分者又はその家族が直接受領しなければならない送達方法によるべきものであり、その方法として配達証明郵便をもつて配達し、これが配達証明書をもつて被処分者がこれを知つたか否かを判断しなければならないものである。

しかるに原審は右行政事件訴訟法第一四条の趣旨を解せず、漫然と受領印のみで配達日時の記載もない配達証(昭和四二年一一月七日一号便と記載あるのみ)をもつて昭和四二年一一月七日につ上告人に配達されたと認定したのは証拠の価値判断を誤つた違法があるものと思料する。

従つて右配達証のみでは上告人が裁定書を受領したか否かは不明であるのだから当然受領日時は判明しないものであり、従つて上告人が裁定書を受領した日時の認定資料を右配達証以外にこれを求めなければならないものであり、上告人はその受領事実を第二審において証人藤森波次をもつて証明した。

即ち同証人の証言中「控訴人宅はいつも留守でした」「郵便物は全部事務所の方に配達になりその中から個人のものを奥に入つていつて自宅のガラス戸の出窓に置いておく習慣になつています」「店に遠藤という認めを預かつているのでそれで受取り、さつきの方法で届けておきました」。

ただ国税局からのはどうしましたかという問に対し、同証人は国税局からのものであるというはつきりした記憶がない旨答えているが、これは当然の答であつて、同証人は単に上告人又は上告人の家族宛の郵便物を便宜受領するだけの依頼を受けているのであるから差出人まで一々確認する必要はないのであるから、数年前の受領郵便物の差出人を記憶してること事態経験則上あり得ないことである。

しかし同証人は「控訴人宅はいつも留守でした。奥さんのミワもほとんど毎月はじめから月末まで地方に時計貴金属眼鏡などを外売に出ており留守です」「毎月昼間は誰もおりませんのでその月も夫婦とも不在だつたと思います」と述べており、単に家屋賃借人の使用人が受領した日時をもつて上告人が裁定書受領の基算日とした原審認定は著しく不当なものである。

二、上告人は裁定書を事実上入手した事実の証拠として第一審において甲第一号証(「証明願の事について」と題する書面)を提出したが、被上告人は乙第四号証の二を提出して甲第一号証の真憑性を争い、第一、二審ともこれを認容した。

しかし右各書証作成日の順序を考えるならば当然最初に作成されたものが純粋に事実を証明したものであり、その後に作成されたものは最初の内容を作為的に変更することが容易に可能なことであり、しかも調書及びその作成者が税務署員であり、被調査者が旅館経営者で税務署の調査をもつとも恐れている業者であるため、調査の内容はいとも簡単かつ容易にその期待どおりの結果をみることができるものであり、むしろ上告人提出の甲第一号証に比してその真憑性は著しく低下されるべきものと思料する。従つて原審が乙第四号証の二を裁用したのは証拠の価値判断を誤つた違法があると思料する。

以上

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